【公務員からの教え 3-18】 50%の力で仕事をしましょうや

保健センターに配属されて早いもので2週間が過ぎた。
当初は嫌で嫌で仕方なかった配属先ではあったけど、慣れとは恐ろしいものというか、はたまた便利なものというか、いい具合に馴染み始めてきたように思う。
仕事熱心かどうかは別として、これも職場の人たちが概して良い人達が多いからだろう。
ただ、あいも変わらず手島係長からの説教は日常茶飯事に続いていたけど・・・

肝心の仕事のほうはと言えば、まだまだ覚えきれていないことも多く、窓口業務も一人で立つのには不安があった。
なにせここ保健センターで扱っている窓口の種類はそれはそれは数も多ければ種類も幅広い。
母子手帳の発行から市民検診や乳幼児健診関係、はたまた病院や診療所の管理、犬の予防接種や飲食店・美容院の受付など次から次へと新たな種類が出てくる。
そして旅館の新規開業受付や生活資金の貸付など「こんなことまでやってるの?」と驚きは絶えなかった。
一通り覚えるのにはもうちょっと時間が必要そうだ。
いや、1年くらいみっちり修行しないととてもじゃないが全ての窓口業務を卒無くこなすのは不可能なようにも感じた。
そんな中、最近はよく30歳代前半の乾さんと同時期に配属された同じ年の黒木さんとよく話しをするようになっていた。(人物紹介一覧はこちら
このお二人とは座っている席の島が違い、仕事内容も大きく異なるので仕事上の繋がりはそこまでない。
ただ、なにせ保健センターは保健師さんや栄養士さんなど女性が多く働く職場。
そのため若手男性職員が少ないので自然と話す機会は増えていた。
まず乾さんは、30歳代前半の10年以上役所勤めをしている人で、背があまり大きくはないからか、見た目からして優しそうな穏やかな雰囲気が随所に滲みでている。
新人のわたしに対しても敬語をゆっくりとした口調で話されるので、話しているだけで癒される癒し系タイプの先輩だ。
手島係長の説教の後には、乾さんの癒しトークに何度癒されたことか(笑)
ただ、この乾さんの話し方というか考え方はちょっと変わったものがあり、いま思えば独特な人だったなと思う。
いつも庁舎屋外のたばこを吸う喫煙場所で(当時は時間中の喫煙は堂々OKだった)、ぷはぁ~とタバコをふかしながら乾さんの話を聞くのが1日10分の日課に近いものがあった。
「まあまあ、すだくん、そんなに頑張らんでもいいんじゃないですか?
仕事はね、全力でやってたらダメですよ。
もっと力を抜いてぼちぼちやりましょうよ。まだ40年間も働くんですし。」

『いや~、新人なんでそれなりに頑張ったほうがいいかなと思ってるんですけど、イマイチですかね?』

「そんなに仕事頑張ったら色々やらされるじゃないですか。
役所ってところは、仕事を頑張る忙しい人のところにさらに仕事が集まるようにできているんですよ。
やってもやらなくても何も変わらないんですから50%の力くらいでやるのがいいですよ。」

『そんなもんなんですか。
でも僕から見たら乾さんって真面目に仕事されてて、仕事熱心なんかなと思ってましたよ』

「そんなに仕事熱心な人って公務員にいるんですかね(笑)
今までにあっちこっち(の職場に)行ってきましたけどあんまり見たことないですよ。
まあ僕のもっとうは、50%の力で仕事をすることですから。
あと、いかに仕事をやっているように見せるかですよ。
10分で終わる仕事を倍の時間、3倍の時間かけていかにも仕事をやっているようにみせるとか、簡単な書類を難しく作ってみせるとかは僕の得意技ですよ。
どうせやってもやらなくても一緒なんですし。
まあ、ぼちぼちやりましょうよ。ぷはぁ~(煙草をふかす)」

と、このようなことを乾さんが異動するまでの2年の間、頻繁にわたしに話されていた。
ただ口ではこう言いながらも、この物腰の低さで窓口対応の丁寧さは保健センターの中で断トツ一番で、特に頻繁に書類申請など窓口に来られる業者関係の方からは絶大な信頼を得ていたように思う。
窓口業務の丁寧さはわたしも何度も参考にさせてもらったし、クレーム対応も非常にうまかった。
いま思えば乾さんが心の底からヤル気がなかったのかどうかは分からない。
話をしていても頭の回転など他の職員より早い人だったので、もしかすると現状の役所組織の中で頑張っても正統に評価されない、だから50%の力で長い公務員生活を続けていこうと、と考えられていたのかもしれない。
まあ考えすぎかもしれないが、わたしにとってはそうであって欲しいなと考えています。
続く。

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