【公務員からの教え 3-19】 「逆に言えば・・・」が口癖

乾さん以外にもう一人職場でよく話す機会があったのが黒木さんだ。
黒木さんは、恐らくわたしと同学年の男性で5年前に高卒採用で入庁してきたらしい。
ここに配属される以前は区役所で戸籍関係の仕事をしていて、今回わたしと同じ時期に区役所から保健センターに異動してきた。
戸籍関係のエキスパートで、難解な戸籍を読み解くのが趣味の一つだとも言ってられた。

見た目はひょっろとし、眼鏡をかけて髪型は今どき珍しい七三分け。
流行りモノ関係やファッション、コンパなど同じ世代が一般的に興味あるものにはまるで興味を示さず、平日は仕事、土日は読書をするのが生きがいらしい。
地味な感じのグレーのスーツにネクタイでビシッとした服装で出社されていたので、見た目のイメージは銀行マンのような感じを想像してもらえると分かりやすい。
そして、なぜか同じ歳にもかかわらず、話はいつも非常に難しく、いや、わざと難しくしているのかもしれないが、とにかく普段の日常会話からして話し方も内容もガリ勉っぽい人だった。
同じ歳とはいいながら、当然黒木さんのほうが職歴が5年も長いこともあり、わたしは普段は敬語で話すようにしていた。
というより、見た目も話し方もはたから見ると決して同じ歳には見えない貫禄のようなものさえありタメ口で話せる雰囲気ではなかった。。。
見た目、話し方が非常に真面目というか固い人柄なので、同僚からは「ちょっとあいつ硬すぎないか??」となるものの、手島係長など上役からの信頼は妙に厚かったように思う。
さて、この黒木さんには口癖があった。それは、

「なるほど、それはつまり逆に言えば・・・」
「この書類を作らないといけないということは、逆に言えばこの書類には・・・」

と何かにつけて「逆に言えば」を言われることだ。
つまり職場内では、「逆に言えば」といえば黒木さん、を指すという感じだ。
運転手さんの永井さんなどは、よくこれをネタにして黒木さんをイジっていた。

「おまえさ(黒木さん)、ほんま逆に言えば、逆に言えばってよく使うよな。
コンビニで無糖のコーヒー買ってきてくれるか、って頼んだら、なんで、
『それは逆に言えば微糖のコーヒーではなく無糖ということですね』
ってなるねん。
そんなの当たり前やろ。おまえもっとシンプルに考えろよ」

役所の人たちは概して、理論派より感覚派の人が多いので、永井さんにしてみれば回りくどい言い方をされるのが面倒だったのだろう。
ただ、窓口業務でも黒木さんが頻繁に「逆に言えば・・・」を連発していたのはおもしろかった記憶としてよく覚えている。
「なるほど、本日はがん検診の予約ですね。
○日開催分は定員に達しておりますので、逆に言えば○月○日でしたら予約可能ですが。
はい、そうです。そのとおりです。
逆に言えばその日でしたら市民検診も同日開催ですので、市民検診も受けていただけますよ。
そうなんですよ。つまり逆に言ってしまえば同じ日にですね・・・」

もう市民の方も何が逆なのか分からなくなっているだろう。
わたしのなかで黒木さんの口癖は、役所時代で最も記憶に残っている№1の口癖です。
続く。

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