【公務員からの教え 3-8】 配属先歓迎会の二次会

一次会の後、家庭のある主婦職員さんたちは一次会で帰り、わたしは所長や課長、係長など上役や先輩など男性職員6名ほどと一緒に最寄り駅近くのスナックに二次会として連れて行かれた。
ほんの1ヶ月前まで学生だったわたしは、スナックというところに生まれてから一度も行ったことがなかった。
まあ、スナックはおっちゃんが行くところというイメージもありあまり行きたいとも思わなかったのだけどどんな場所なのかもちろん興味はあった。

スナックの中は証明が薄暗く、カウンターとソファー席が2組くらいある小さなお店で、店内にお客は誰もいなかった。
スナックのママらしき50歳くらいのおばちゃんと、もう一人若いお姉さんがいる。
すでにかなり酔っている田坂所長に対してそのお姉さんが、「ターちゃん、お久しぶりネ~♡」と声をかけると、「ミュウミュウちゃん~また来ちゃったよ~」と所長も声をかける。
どうやら話し方からしてこのお姉さんは中国の人らしい。
そして田坂所長はこのスナックに常連らしい。
いや、それより昼間に見せた寡黙な保健センターのトップ、田坂所長が酔うとこんなに変身?変貌?するのかと思うとおかしくて仕方なかった。
そして、ソファー席に座ると田坂所長はミュウミュウちゃんと、課長と課長代理はカウンターを挟んでスナックのママと楽しそうに話し始めた。
わたしはと言えば、一緒に来た残りの手島係長、先輩職員の乾さん、運転手の永井さんとお酒を飲み始めた。
するとほどなく手島係長がわたしに優しく声をかけた。
「どう、配属初日は?緊張した?」
『ハイ、もう緊張しかしませんでした。もうそれはそれは・・・』
というと手島係長はニッコリ微笑みながらわたしに言った。
「じゃあすだくん、ちょっと隣の席行こうか。話があるからさ」
言われるがままに誰も座っていない隣のソファー席に座ると、なぜか先ほどの表情とうって変わり、手島係長の顔つきが変わっている。
「まあ初日だから仕方ないとしてね、キミね、さっきの何なのあの身の振り方は?大学で教えてもらってないの?」
「あっ、ハ、ハイ・・・」
いきなりのことだったので驚いた。
さっき?さっきとは一次会の中華料理屋のことか?
身の振り方?なにかお酒のそそうでもしたっけ?
みなさんの空いたグラスには常に注意を払っていたし、お店への連絡のつなぎ役もそれなりに出来ていたし、そそうのないよう最低限のことはできていたはずだ。一体何が!?

ととっさに考えるものの、何の話なのかとっさに分からなかった。
すると、手島係長は静かにゆっくりと話しはじめた。
そう、これが栄えある?手島係長の説教タイムの鐘を初めて鳴らし始めた瞬間だった。
「ビールの回るタイミングが遅いよ。新人なんだから開始10分以内に回り始めないと」
「瓶の持ち方がおかしいよ。ラベルが見れないように回らないと」
「回る順番がおかしいの気が付かなかった?まず、所長、次に課長。課長代理、主査。ここまでは合ってたよね。次は乾くんじゃなくて、職歴の長い小山田さんでしょ」
「キミね、がっつりとご飯食べてたけど、新人は食べるもんじゃないよ。上司先輩に料理を取ることに集中しないと」
「紹興酒がなくなったら、新人が走って1階までもらいにいかないと。歓迎会とか関係ないよ」
「先輩が話しているときは、手にグラスはもたないでテーブルにおく。そして姿勢を正して聞く。」
「飲み会が終わったら新人はまっさきにお店に出て出てくる先輩を見送らないと。今日はありがとうございました、って。」
「先輩がスーツの上着を脱いでいいと言ったからって、須田くんは脱いじゃだめでしょ。新人は最後までしっかりスーツ着とかないと。」
・・・

などなどスナックに入ってから二次会が終わるまで2時間半たっぷりと説教をくらった。
この間、係長はウィスキーを片手に淡々と途切れることなく説教を、わたしは何も飲むことも許されないままただ相槌をうちながら聞いていた(聞かされていた)。
確かにそれは自分の落ち度です、というのもあれば、そんなことまでしないといけないのか・・・ ということまで次から次へと。
そして、二次会が終了。
田坂所長はミュウミュウちゃんと話がたっぷりできてご満悦だ。
課長も課長代理もたんまり飲んだようで幸せそうだ。
そしてわたしはと言えば。
配属初日にして既に生気をかなり奪われたかのような顔になっていた。
今思っても配属初日にたっぷり2時間半も説教をくらえば落ち込むのは仕方ない。
そしてそんなわたしをみた運転手の永井さんがニタニタしながら近寄ってきた。

「ははは、大丈夫かおまえ、初日から災難やったな、まああのオッサン(手島係長)にはよくあることだから気にすんなよ。まあGW明けにいろいろ教えてやるわな、ははは」

こんなことがよくあるのかこの職場は・・・
初日から配属の夢叶わずと説教の2本立てですっかり生気を失ったわたしはどうやって帰ったのかも覚えていない。
いまの唯一の救いは明日からのGWだけだ。
続く。

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