「三つ星区役所は?」の報道に考えること

三つ星区役所は?橋下市長がミシュラン流調査へ」 読売新聞
役所間のサービスの質を分かりやすく表した手法・データは今まであまりありません。
たまに週刊ダイヤモンドや東洋経済新聞、リサーチ会社が特集として発表するデータくらいなものです。
そのため、今回の星評価で行政サービスの差を表すことは、市民視点から見たらおもしろいと思われる方が多いと思います。
確かに私も一瞬おもしろいこと考えるな、と思いましたが、次の瞬間には、う~ん、どうも違和感を感じる、、、となりました。

やはり個人的には、今回のこの企画にはいくつかの疑問を感じざるをえません。
◎行政サービスは格付けに向かない
飲食店やホテルなどのようにユーザー(利用者)がかけられるコストや嗜好に応じて自由に選択可能なものは、格付けに向いています。
一方で「行政サービス」というものは、ユーザー(住民)が何でも自由に選んだり利用できるものではありません。
言い換えるならば、飲食店やホテルなどと決定的に違うことは、「利用できないサービス」がかなりあるということです。
行政の全べてのサービスは法・条例などに基づいて行われます。
そのため、いくらユーザーが強く利用したい、どうしても利用しないと困る、と願ったとしても行政側の立場からはやむを得なく断らないといけない場合がどうしても発生します。
誰しもが市役所や区役所で、「基準に達していないので・・」「今回のケースは該当しないのですよ・・」と断られたことはあるのではないでしょうか。
私も公務員時代何度も断った経験がありますが、心情としては、このケースの場合、住民の方にどうにかして制度を利用できるようにしてあげたい、と思いながらも、現行の制度上ではどうにもできないことは必ず発生してしまいます。
そのような場合、納得いただけるよう低頭平身になりさらに丁寧に説明することを心がけましたが、どうにも納得いただけない場面も少なくありません。
こうってしまうと住民の方はこう思うでしょう。
「これだから役所ってところは。。。」
「なんで役所ってこうもサービスが悪いんだろう」
「あ~やっぱりこいつら公務員だわ」

そしてつまり、
星0=無星
の評価でしょう。
行政サービスをより向上させ、よく巷で聞く、「街のコンシェルジュ」のように高度に窓口をサービス化するという考えには賛同ですが、ユーザーの選択権が限られている行政サービスを格付けするというのは向いていないのではないでしょうか。
◎さらに窓口職員の負担が増える
これは何も今より良いサービスをしないといけない。
だから、さらに労力や時間を使うから負担が増えるな~という話ではありません。
私の予想では、今回の区役所間の格付けをすることでクレーム対応がさらに増えると考えます。
例えば、上記のどうにも制度上は利用していただけないサービスがあり、住民の方に断らざるをえない場合、住民によってはこんなことを言われる方もいるでしょう。
仮に3つ星と無星区役所の比較です。
3つ星の区役所職員には、
「オマエら、ホンマに3つ星なんか!?最高評価もらってるんやったらなんとかせえよ!」
無星の区役所職員には、
「だからオマエら星ナシなんじゃ!給料だけもらいやがって、もっと働けや!」
言われそうなことは私の経験則からですが、だいたいこんな感じでしょう。
特に大阪という土地柄、もっと烈火のごとくクレームを言われる方もいるでしょう。。
住民の方から見れば、「法にのっとって」や「これは決まりですので」というのは最も嫌いな言葉です。でも実際はそうなのですから一職員の力ではどうしようもありません。
確かに言い方、説明の仕方の問題は大いにありますが、窓口職員の一人の力では、どうにもできないことを今回の格付と絡め、さらにクレームを言ってくる方が恐らく出てくるだろうな、と容易に想像できます。
ただでさえ、区役所には何の用事もなく毎日毎日ヒマつぶしに来られる方や、手土産を持参してクレームを言いにくる方までおられるのに(私の公務員時代には)、これ以上、格付けと絡めた新たなクレームが発生するのは勘弁して欲しい、と思うのは職員共通の思いであり願いではないでしょうか。
ちなみにミシュランガイドのように、直接その飲食店とは関係のない第三者が格付けしているならともかく、今回の場合、自分たちと同じ組織の長である市長直属です。
「あの格付けは第三者が付けたものですので・・・」なんていう言い逃れが出来ないことがさらに辛いところです。
◎予算が少なすぎる!?
これは、私の感覚によるものですが、24区をたったの予算100万円で公平に格付けなんてできるのでしょうか。
例えば「覆面調査 料金」で検索いただくと、いくつかの覆面調査会社の料金相場が出てきます。
それによると、飲食店1件を覆面調査するだけでも数万~10万円以上が最低相場です。確かにこのくらいはかかるでしょう。
さて今回の区役所窓口の覆面調査ですが、そもそも1つの区役所にいくつの窓口があり、どれだけの窓口対応業務があることか。
1つの区に対してたったの約4万円の予算で企画、調査、統計、報告書作成、格付けまで公平に正しくできるのか私は疑問に感じます。
ミシュランガイドの場合、プロ調査員が「世界各国で調査員が同じ基準で評価していること」という基準に沿って調査しているそうです。
これに照らし合わせると、区役所の多種多様な窓口(住民登録、戸籍、税務、保険、年金、福祉、介護、保健活動など)を「同じ基準」に沿って調査できる調査員が見つかり、そして果たして1区4万円で調査できるでしょうか。
まさか低予算だから今回はアルバイトに任せました、とはいかないでしょうし。
他にもまだまだ色々書きたいことありますが、長くなってきたので主に感じる3点を書いてみました。
役所の窓口サービスの向上は今後も確かに永遠の課題でしょうが、今回のこの格付サービスは、中の職員から見れば、「もうたまったもんじゃない」という一言に尽きるのではないでしょうか。
今回の橋下市長のとっさの思いつきのようなこの企画で、窓口職員のやる気、意欲が上がるとは到底思えません。

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