【公務員からの教え 3-20】 精通している食品衛生監視員

保健センターの窓口では、それはそれはもう数多くの制度の窓口になっていたが、そのなかでもけっこうな来客頻度があったのが飲食店営業許可申請だ。
飲食店を新規にオープンしようと思うと、管轄の保健所から「飲食店営業許可」という許可が事前に必要になり、大阪市の場合はその受付窓口が各区の保健センターだった。
当時の受付の流れは、
1)書類受付(事務職)
申請書、店舗図面など一式の書類と申請料16000円を頂戴する。

2)現地調査(食品衛生監視員)
問題なければ許可書の作成。問題あれば改善してもらう。


3)許可書の交付(事務職)
というもの。
事務職の仕事は、申請書類や添付書類に不備がないかをチェックするのがメインだった。
ただ、なにせ飲食関係の許可は約30種類もあるし、店舗内設備にも細かい規定があったりと覚えることが山のようにあった。
しかも、コンビニのように数多くの許可が必要だったり(飲食店営業+乳類販売業+食肉販売業+魚介類販売業の4種類の許可が必要)、特殊なことをしたいという相談があったり(例えばドックカフェなど)と専門知識の不足から事務職だけでは対応できないこともけっこうあった。
そんな時に頼りになるのが、食品衛生監視員たち、つまりわたしの配属時に何の仕事をしているのか係名からはさっぱり分からなかったお隣の生活環境係という係だ。
当時の生活環境係は、各区の保健センターにそれぞれ設置され、食品衛生監視員さんと環境指導員さんたちから構成されている係だった(今は市内数カ所に集約されているらしい)。
主な仕事内容は、食品衛生関係や理美容許可、クリーニング場、犬の管理、害虫相談というもの。
特に食品衛生監視員さんという職業は専門職の職業で、名称も固ければこの仕事に就くのも難しい。
例:)大阪市役所の食品衛生監視員さん募集要項
そう、上のページを見てもらうと分かるとおり実は薬剤師免許を保有している人しかなれないのが食品衛生監視員。
いったん採用されると、基本的に定年まで食品衛生や環境衛生関係の仕事をすることになるので、それはもう飲食の営業許可関係などにはかなり精通されているまさにエキスパート。
事務職が窓口で来訪者に聞かれ分からないこともこの人達に聞くとあっという間に解決ということが多かった。
しかも、たまたま配属された保健センターだけがそうなのか、職業的にそいうものなのか分からないが、とにかく窓口業務について分からないことがあると事細かに理論だてて一つ一つ丁寧に教えてくれた。
特に西沢さんという30歳代の女性監視員さんは、嫌な顔一つせず、どんな些細な質問にも丁寧に答えてくれる天使のような存在で、わたしが在職中に一番いろいろ窓口業務について教えていただいた人かもしれない。

『分からないことがあればとりあえず西沢さんへ』

というのが事務職の間での合言葉だった。
この丁寧な指導や教育は、わたしがいた事務職係での「やりながら覚えろ」とは方向性の違う指導法だろう。
結局、事務職を対象とした窓口業務に関する体系的な研修や教育などは在職中に一度も受けたことがなく、口頭から口頭でその窓口対応方法が伝えられる伝承のような教育方法だった。
恐らくだが、事務職は数年すれば必ず異動があり、その際は全く違う部署に行かされることも多い。
そのため、窓口業務や制度の奥深いところに達することもなく異動となってしまったり、本人たちも「まあもう少ししたら異動だからそこそこ覚えておけばいいか」という雰囲気になりがちなのかもしれない。
一方、この食品衛生監視員は、入庁から定年までの退庁の間、異動はあっても基本的に同じ業務に携わることになるので、制度の細かいところまでやはり精通するようになる。
言い換えれば、
事務職は色々な仕事をつまみぐいしながら広く浅い知識を身につけるゼネラリスト

食品衛生監視員など専門職は、狭く深い知識を身につけるスペシャリスト

といえるだろう。
海外の公務員制度はスペシャリスト養成型、日本の公務員制度はゼネラリスト養成型を前提に考えられているといわれるけど、個人的にはゼネラリストよりスペシャリストを養成することがこれからは必要だと考えている。
このあたりの話はまたおいおいに。
続く。

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